病棟看護師、事前申請できない残業はサービス残業にするしかない!?

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残業に関して、こんなおふれが職場である病院から出た。

「残業に関しては、事前に所属長の許可を得ること。止むを得ず許可なく残業をした場合は検討する。」

確かに社会保険労務士のサイトなどをみると「全ての管理者は、残業申請は事前申請を徹底するように。面倒臭くても、無駄な残業を減らせます!」といったうたい文句が散見される。一律に全ての管理者に対するこういったメッセージ、労働者側からすると、なんだかとても危険に感じる。

私がサラリーマン時代、散々残業の事前申請はしてきたし、その形に特に不満も不自由もなかった。しかしこれが病棟勤務となると全く残業の発生理由、質が違う。社労士、弁護士などプロの皆様に言いたい。仕事の内容、業界の質は色々。一律にこの方法ではサービス残業などで労働者を追い詰めるとにしかならない。法律や現場に詳しくない管理者が勘違いしないような伝え方でお願いしたい。

ではこの機会に病棟での残業の特徴についてまとめてみようと思う。(なお長年の問題である始業前残業については別の機会に述べていきたい。)

病棟看護師に残業が発生する理由

入院患者の容体急変時

入院している患者の急変は、当然前々から予定されていたことではない。急変時は人手も多く必要になり、集中的に対応することになる。

救急患者

救急車による搬送などにより、急遽入院となった場合、当該患者の観察や処置、環境の整備だけでなく、入院時の各種確認などに多くの時間や労力を要する。

ナースコール、患者、家族対応

ナースコールが鳴ったら必ず対応することになる。(ナースコールを押しても無視される病院なんて嫌ですよね?)どんなに激しく鳴らされても、色々な人が次々押して来るような日でも、一つ一つ解決していかなければならない。

患者や家族、関係者から、要望、クレームなどがあれば、状況にもよるがじっくり時間をかけて丁寧に対応する必要がある。

カルテへの記録

勤務中の患者状況により、カルテへの記入内容が多く、時間を要することがある。また上述の急患など日中に生じた突発的な事態のせいで、カルテの入力が勤務中に終わらず、残業となる場合がある。またこのカルテの記入は、実際に対処、処置、観察した本人でないと書けない場合が多く、他の人に頼みづらい仕事である。

看護師の良心によるもの

「帰っていいよ」と上司に言われてもなお、帰れない場合があるのが病棟勤務の難しいところ。これが残業と認められないとしたら、それは看護の質、病院の質、そして日本の医療の質に関わる問題になるのではないかと思う。

看護師って良心あってこそ成り立つ仕事だ。誰にも強制されていない、やらなくても時は過ぎ去っていく、でも良心があるからこそ、、、それをやるのだ。例を下に挙げてみる。

  1. 「ずっとベッド上で辛い」という体を動かせない患者さんを、時間も手間もかかるが、車椅子に乗せて病院内を散歩。
  2. 入浴の希望のある麻痺患者に対し、ベッド上で体を拭くのではなく、時間も人手もかかるが、入浴の介助を行う。
  3. 歩けるようになりたい、という患者を立たせ、器具などを使用しながら歩行練習を行う。
  4. 「時間だから帰って。後は残ったメンバーでやるから」と言われたが、残っているメンバーは急患や急変でてんてこまい。そんな時、決められた時間に測定すべき血糖値が取れていないことに気付いてしまった。このままだと大幅に時間に遅れて測定することになる。自主的に残って血糖値測定を行なう。
  5. また、4のような時、呼吸苦を訴えている患者がいれば、もちろん放って帰ることはできない。やはり残って痰の吸引などの処置をしてしまうだろう。

看護師が残業を認めてもらえない理由

事前申請ができない

残業申請とは、従業員が残業を事前に会社(上司)へ申請して、原則として会社(上司)が承認した場合のみ残業を行う制度。でもそれをそのまま看護師の病棟勤務に当てはめられたら、正直たまったものではない。病棟で残業が発生する原因やきっかけは前述の通りであって、「事前に残業するとわかっている場合はほとんどなく、残業するに至る原因は勤務中に生じる」からだ。

上司が一人一人の業務量や負担の把握をしづらい

看護師は複数の患者を受け持ち、その中で容体の変化が生じたり、必要と思われる処置が加わったり、時には他の看護師のヘルプに入ったりする。そんな病棟看護師の集団の中で、上司が1人1人の業務量を正確に把握できないのも病棟看護師業務の特徴だ。

「残業代を申請しないと残業代が出ない、それは違法」だと知らない

労働基準法第37条によると、雇用主に法定労働時間を超えて働かせた残業代分の支払い義務があることが明示されている。雇用者からの申請の有無は関係なく、支払う義務がある、と解釈できる。

法的にはどれだけ残業したか、の証明があるとより確か(第三者の証言や、タイムカード、カルテを操作していた時間がわかるものなど)。

病院側の無関心

しかし病院機構における管理者の中には、このような労基法や労働者の権利の基本について疎い方が多い。医療業界の発展のためには、病院組織の経営者やアドミに関わる人々に、知識の徹底、資格の取得などを必須としていく必要があると思う。

財産がある、医師の資格がある、医師の家族だというだけで、「病院」という特殊な業界でスマートな労働環境を整備していくことには無理がある。看護師の良心を犠牲にする要因にさえなってしまいかねない。

看護師側の無知

何度も繰り返しになるが、サラリーマンとして一般企業に勤めてきた私からすると、病院での残業に関する考え方や慣習は理解に苦しむものが色々ある。例えば、、、

  1. 残業申請をするのは良くないこと。
  2. 残業になるのは自分の能力が低いから。
  3. 好きで時短勤務をしているのだから、残業申請はしない方がいい。下手に残業申請するとフルタイムに変更しろと言われる。
  4. 残業申請すると上司が嫌な顔をする。
  5. 残業しなくてはならない状況とわかっているはずの上司が「もう今すぐに帰って」と命令。言われた瞬間、上司の管理の元ではなくなるので残業申請できない。

一般企業の人々が当たり前のように知っていることを知らず、当然のように主張している権利を主張せず、そんな抑圧された環境で育てられた看護師が上司になり、また新しい人を抑圧していく。この負のスパイラルを断ち切る必要がある。

まとめ

雇用主である病院にも、雇用者である看護師側にも、もっと基本的ルールなどの知識を定着させ、問題意識を持ってもらうことが大切だ。それが病院の質にも、看護師の雇用の確保にもつながるだろう。

誰も好きで残業しているわけではない。上司や仲間が口では「帰っていいよ」と言っていてもまだ残ってやるのには、上述のようなのっぴきならない現場の状況を目の当たりにした看護師の「良心」があるからだ。

あなたが病院に入院したと想像してみて欲しい。

あなたは肺炎や痰のつまりで呼吸が苦しい。それを目の当たりにしている看護師が「残業どうせ認められない。終了時間だから帰ってってさっき上司に言われたし。まあいいや」と放って帰るような病院に、あなたは入院したいですか?

 

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